一道
【糸を織る】
日本全国各地の織物の素材には、木綿、麻、絹、または藤の蔦などいろいろあります。
その地方、地方で採れる素材をその地方の気候風土に合うように工夫を凝らし、織物として育んできた歴史があります。
現在も各産地に伝わる織物には、素朴なもの、味わい深い物が多く伝えられています。
中でも、例えば織り手泣かせの細かくて滑りが悪く、切れやすい糸で織られる織物には、高度な技術と繊細な神経が求められますが、他にない風合いが出せ、肌触りと織り手の優しさに包まれます。
重要無形文化財【伊勢型紙を彫る】
江戸小紋の型となる伊勢型紙は、地紙と呼ばれる専用の和紙に、柄や文様を一つひとつ彫って表現されます。その彫り方は錐彫り、引き彫り(縞彫り)、道具彫り、突彫りと分類され、各分野に専門の職人が存在します。一見単純な作業のようにみえて、実は想像を絶する強靭な精神力と根気が必要とされるのです。長年積み重ねた経験と技術、そして何よりも彫り始めから彫り上がるまで、いつも同じ気持ちで彫り続けなければならないという、心の技が大きく関わってくるのです。
職人によっては、いったん彫り始めると8時間以上も同じ姿勢のまま、コツコツと彫り続けるといいます。だからこそ、機械では不可能な手仕事の独自の味わいが生まれるのです。
【生地に染める】
型彫り職人が手間をかけて彫った型紙、または丹精をこめて織られた生地は、染め上げることではじめて、輝きを得ます。
染めには、糊づくりから糊置き、しごき、蒸しなど、多くの工程があり、これらもすべて手仕事で行われます。
最も神経を使うのが糊置きです。生地の上に型紙を置き、後退りしながら糊置きを進めますが、型紙を繋ぐ時に送り星の印(型紙に付けられた小さな点)をぴたりと合わせて柄を合わせるという、熟練した技がなければ成し得ない高度な技術が必要です。
だからこそ、小さな一つの柄に職人の命が染め込まれ、言葉では表せない美が宿るのです。